アズミというペンネームで長いことやらせてもらっているが、被って被って仕方が無い。
そりゃ三文字で、しかも地名や人名として既に存在する響きをわざわざ選んでいるのだから文句を言うのもお門違いだとは分かってはいるのだが、それにしたってもうちょい考えときゃ良かったと今になって後悔している。
頼まれてもいないが由来を説明する。
元々「泡」というペンネームを使っていた。これには特に意味が無い。漢字一文字で小ざっぱりしていればくらいのことしか考えていなかったはずだ。
泡としてやっていたある日、僕の携帯に見知らぬ番号から電話がかかってきた。無視を決め込んだら長ったらしい留守電を残されたから、恐る恐る聞いてみると
「あの、コイズミさんですよね? いい加減逃げずに私に向き合ってください。これ以上逃げ続けると法的措置も考えますので、そのつもりで」
冷たく神経質そうな女の声だった。
勿論事案なんざ一切持ち合わせていないからただの間違い電話なのだが、僕はその非日常的な異界からの留守電に対して妙に嬉しくなってしまい、その日からしばらくは泡ではなく「コイズミ」と名乗っていた。
そのうち、コイズミじゃ誰だか分かんねえよとクレームが来た。だが、このまま「泡」に戻すのも勿体無くなり「泡コイズミ」と連名にしたのが「泡イズミ」と縮まって、最終的に「アズミ」に落ち着いたのだった。
今考えるとどうにも理に適ったペンネームの付け方ではないから後悔もひとしおなのだが、かと言ってわざわざこれから新しく考えるのもなあという気分である。
だって十年使っているやつですよ。今更変えたところで、元々からの付き合いの人を混乱させるだけだ。
では過去に遡るとして、どのようなペンネームを付ければ良かったのか。
拘って拘って拘り抜いた感が見え見えのギミック増し増しなペンネームは、恥ずかしくなるから駄目だ。名前負けする。ダブルミーニングとしてこんな裏の意味があるんですよみたいなやつも、せめて名前だけは奇をてらおうと頑張ったんですね、書いているものはどうにもパッとしないのに名前に限っては一人前でしてよ、と思われそうで落ち着かない。
やたら綺麗な漢字を並べたやつもキツい。これも名前負けする。山紫水明みたいなペンネームで、いざ書いているものが
「なんか最近顔を洗っても洗っても目ヤニが目元にこびり付いて全然落ちなくてですね」
だったら、最悪だろう。でも僕はそういう書き出しを平気でする。
ユーモア系ペンネームも厳しい。面白くないからである。例えば今、咄嗟に考えた「竹やぶやけ太」というペンネームがある。もう、地獄に落ちた方がいい。
ここまで書いて、我ながらこじらせやがって、と思う。皆そこまで人のペンネームに関心なんて持っちゃいない。それもそう。
僕も勿論、他人がそういった類のペンネームを付けることには何も思うことが無いし、これは己がそのセンスを許せるか許せないかのみみっちい話でしかない。
じゃあ、もう何も考えずにランダムで出力した意味の無い文字列をペンネームにすりゃいい。響きが良ければ尚のこと可。一つ、理想的なやつを知っている。「ペッペッペッ・ソーランアレマ」。
少年アシベに出てくるギリシャ出身の美人なお姉さんなのだが、到底人名では有り得ないような(ギリシャで本当に使われていたらすみません)、しかもあまり上品でもないオノマトペをファーストネームにするセンスに感服する。
上の句が強過ぎて目立たないが「ソーラン」と「アレマ」という、何だか無駄にジタバタしていそうな二語を繋げたラストネームも素晴らしい。こうしてフルネームで並べてみて、本当に語感以外の意味が何も無さそうなのが何より最高だ。
これをペンネームにするとして、一つ問題があるとすれば既存のキャラと丸被りすることだが、まあ、いいだろう。どうせアズミなんて五百人くらいは被っているだろうし。その点ペッペッペッ・ソーランアレマは流石に僕が二人目なはずなので、まったく問題無い。
恐ろしいことに、名は人を表す。ペンネーム一つ取ってもそいつの人間性が透けて見えるなんてことはザラにある。
できるだけ意味の無い名前をという志向も、裏を返せば何も知られたくないという臆病さの裏返しかもしれない。こんなにダラダラと自分語りをしているのに?
ということで、アズミもといペッペッペッ・ソーランアレマの今後の創作活動に御期待願います。
(2025.10)

