注1:ライブのネタバレはありませんし、しません。
注2:敬称略。
B’zの新譜「FYOP」が先日リリースされた。ファンの鑑である僕は発売日前日、退勤後にいそいそと近場のタワレコまで行ってフラゲし、今日に至るまで何周か忘れたがずっと聴き続けている。
聴いている中で良し悪し問わず色々と個人的な感想も浮かんできた為、以下それを記す。最初は概要的な感じでいいやと思っていたのだが、結果として死ぬほど長くなってしまった。
ちなみに、色々と仕様違いが出ている中で僕はブルーレイ付きの限定盤を買った。が、映像は未視聴につきあくまでアルバム本体の感想に留まる。よしなに。
仕様と特典の話
今作は僕が買った映像特典付きの限定盤とは別にメタルスピーカー付き限定盤というのも出ている。
映像もスピーカーも全部乗せの完全版は出ていないからどちらも集めるには中身がまったく同じアルバムを二枚買わないといけないのだが、この節操の無さは今に始まったことじゃないから特に何も思うことは無い。勿論あまりやってほしいとも思わんが。
しかしこのスピーカーってどれくらい効果があるもんなんだろうか。
電化製品でもないから単にスマホの音を構造と素材の妙で拡散させる仕組みなんだろうが、何回か試しただけでただの文鎮と化しそうだから購入は控えた。仮にジャケットのラジカセを模したBluetoothスピーカーとかだったら何万か出してでも買っていたかもしれない。危なかった。
って言うか、折角ラジカセをアートワークのモチーフにしているんならもうちょいスピーカーのデザインにもラジカセの要素を入れればいいのにと素人考えでは思うのだが、特注云々でコストがとんでもないことになったりするんでしょうね。
アートワークとアルバムコンセプトの話
で、その燃えるラジカセのアートワーク。
タイトルもバンドのロゴも置かずに、ウユニ塩湖的な空間に、燃えるラジカセ一台。今までのこのバンドのジャケットの中では相対的にカッコいい方だなと思ったのだが、何故にラジカセで、何故に燃えている?
別にどの曲にもラジカセのラの字も出てこないから本当にただのモチーフのようで、アルバムの根幹に関わるような何かしらの意図も特に無さそう。ましてや別にグリーンデイのアルバムジャケのパロディという意図も無いだろう、似てるけど。
多分なんだが、デザイナーがこういう感じでどうですかねと出した何種かの案の中から選ばれただけなんだろうと思う。
アルバム「Brotherhood」の制作時、デザイナーがジャケット候補を何案か並べて、二人がそこから適当なやつをピックアップしている映像をいつだったかに見たことがある。
アートワークはアルバムのビジュアルイメージの大部分を担うかなり重要なポジションのはずなのだが、それにしちゃあんまり拘りが無いなと思ったのだった。
その無節操さは本体を離れデザイナーにも伝播しているのか、例えば近年の何作かのジャケットはネット上に出回っているストックフォトをいい具合にいじっただけだったりすることがSNS上で発覚したりしている。
今作がどうか知らないが、曲がりなりにも日本を代表するバンドのアートワークがストックフォトの加工品ってどうなのよ。そこはもう少し金かけて作ってくれよな。
何もジャケットだけの話ではない。特に近年顕著だが、例えば一定のコンセプトを以てアルバム全体に統一感を持たせるとか、共通したカラーの曲で固めるとか、そういうアルバムに「作品性」を持たせる試みに対して、B’zの二人は面白いほど関心が無さそうな気がする。
この前のファンクラブ会報でも、稲葉は割とはっきり「コンセプトは特に無い」「作った曲が溜まってきたからアルバムとしてまとめる」と言及していた。この人達、トラックダウンした後の作品の行方に関してはマジで何でも大丈夫と思っていそうだ。
その潔さと言うか、下手にアーティスティックな方向に色気を出さない職人気質なところはこのバンドの信頼できるところだと僕は常々思っているのだが、流石にもうちょい欲を出してもいいんじゃないですかねとは思う。
マスタリングの話
まだまだ曲そのものの話に辿り着かないし、愚痴っぽくなって最悪だ。
今作のマスタリングに関してはもうずっと不安視していた。何故なら去年先行で配信リリースされていた「イルミネーション」のミックスが、控え目に言って何じゃこれだったからだ。
音の分離も何もあったもんじゃない、曇り空のような籠もった音像が中心の方でゴチャッと鳴っているようなこの感じよ。
古いアンプでモノラルのアナログ盤を聴いているような感触を目指したのかもしれないが、別にどの媒体でもそういった言及もされていないから納得しようもない。曲はいいのに勿体無ぇなと思いながらずっと聴いていた。
だから今回のアルバムも音質面に関しては期待していなかったし、下手したらイルミネーションも配信版のミックスのまま調整せずにブチ込んでくる可能性があるなとすら思っていた。が、蓋を開けてみればどの曲も開放的でシャープな音像だったのは嬉しい誤算である。
下手したらここ十年くらいのオリジナルアルバムの中で一番均整の取れたミックスなんじゃなかろうか。イルミネーションもまったく別物になっているし、ちゃんと既発曲含めてアルバム全体に統一感を持たせるミキシングを仕掛けてくるとは思わなかった。流石にプロを舐め過ぎである。すみませんでした。
一つ思うのは、これはもうずっと昔からだが要所要所でクリッピングノイズが耳に触る瞬間がある。
特にギターソロのハモリ部で顕著に見られる。これ、再生環境次第でどうにでもなるんだろうが結構ストレスで、そこだけ気になった。
構成ないしは曲順の話
嬉しいのは、このアルバムは曲数も再生時間もコンパクトな上で構成に優れているから中弛みせずに最後まで聴き通せる。
B’zが出すアルバムにありがちなのが、前半にシングル曲やリードトラック、派手な目玉曲を集め過ぎて後半がどうしても地味な印象になる、というやつである。
前半でとにかく得点を稼いで、その流れで聴き通してもらおうという魂胆なのかは知らないが、具体的なアルバム名こそ出さないものの本当にありがちなのである。別にBrotherhoodのこととは言ってない。
その点、本作は「イルミネーション」と「The Ⅲrd Eye」という実質シングル級の目玉曲が終盤に控えているからラストスパートでもう一花火打ち上げられるし、全体を通してもスローバラードが無く軽快なミドルテンポを中心に据えているから、一定の熱が持続したまま終わっていくのがいい。
曲単体は悪くないのに曲順のせいで損をしているというのは割とどのバンドでも聞く話だから、その辺も是非抜かりなく考えてもらいたい、ということを誰かBrotherhoodに言ってやってほしい。
各曲の話
ようやっと曲の話ができるのであるのだが、決して悪い意味ではなく、バンドとして完成され過ぎているが故にあまり書くことが無い。
アルバムを作るにあたって多分具体的なテーマとか方向性とかはマジで何も考えていないんだろうなというのは前述した通りだが、B’zの場合もう十数年ずっとそんな感じだから、今更急にキャラクターを変えてきたり実験的な作風になったり、なんてことは無いのだ。安定とも盤石とも大いなるマンネリとも言える。
細かい流れとしては、YT(Yukihide Takayama)がメインアレンジャーに采配された「DINOSAUR」から脈々と続くルーツ・クラシックロック路線の延長に今作があると思われる。
何か流行りを意識したりとかまったく趣が異なるアレンジを入れるとか、そういうものは一切無いのだが、それでいいんだろうと思う。小賢しい真似をしなくとも既に強烈な固有性を持ち合わせているわけで、その中で最大限のクオリティを追求してくれれば、もう何も言うことは無い。
個人的には総じて前作「Higway X」以上に気に入った。色々あったから心配していた松本のパフォーマンスも良さそうだし、聴きどころも各曲に必ずあるし、何だったらここ十年単位でも満足の部類に入る。
引っかかった点があるとすれば、ここ最近の松本のマイブームとしてインタビューなんかでちょくちょく話している「捻ったコードやメロディラインを使いたい」が、局所的に違和感となって表れる瞬間がちょいちょいある。
今回も、何曲か「このコードで締める?」とか「こんなメロディの飛び方する?」といったことを感じた。別にテクいことせずにセオリー通りに行った方が気持ち良く聴けるのに、という。
現実問題、もう何百曲も書いてりゃ生み出せるパターンにも限度があるから色々と知恵を出しているのだろうが、大衆ポップスたるものもうちょい素直になってくれてもいいんじゃないのとは思う。
以下、各曲に対するメモ書き。
01.FMP
リードトラック。アサヒスーパードライのCMソングに採用されてから半年してようやっとパッケージ化。待たせてくれる。松本をして「『兵、走る』2」と言及するシンプルな8ビートだが、こっちの方が全体的にミックスがクリアで、トラックが生々しく聴こえる。音数も最小限なはずなのに物足りなさが無いのはベテランの技。
ドラムは元ガンズのマット・ソーラム。2番Aメロのフィルが大胆なのにタイトでカッコいいなと思っていたのだが、そう言われてみれば「You Could Be Mine」のイントロを思い出すような。この人のドラム、HR/HM由来のパワータイプな割には緻密で大味にならないからとてもいい。この曲だけとは言わずもう数曲くらい叩いてほしかった。
02.恐るるなかれ灰は灰に
2曲目にして腰が据わったヘヴィチューン。
B’zは大体五年に一回くらいの確率でこの手の曲を出すのだが、その中では比較的コマーシャルだしシンガロングできるパートもあるし、取っつきやすい印象。それでもドラマタイアップと考えると中々コアな曲を提供したなとは思うが。
歌詞の要旨としては「人間どうせ最後は灰になるんだからいっそのこと燃え上がってやろうぜ」という感じだが、つくづく稲葉とは無常観が服を着て歩いているような男だと思う。ソロ曲「Okay」の逆上版と言うか。
03.濁流BOY
中々今までのB’zでは類似例が思い浮かばないBPMの曲。サビ半ばでドラムが四つ打ちになったり、Aメロのコードストロークを珍しく途切れ無くジャカジャカやっていたりと、その軽快さに少しばかり一時期の邦ロックを連想した。バックホーンとかやってませんでしたっけ、こういうの。
エコーチェンバーへの皮肉、もとい警鐘とも受け取れる歌詞。無関係な他人様の繰り出す虚構の物語を「濁流」と称するのは実にらしいなという感想。僕も気付かないうちに濁流に飲み込まれないように気を付けなければ。とりあえずXなんて早いところやめましょうね。
04.鞭
配信シングル曲。良くも悪くもここ最近のB’zだよねという。
リフのインパクト勝負、無駄に歌謡曲でございなサビメロ、隙無く厚塗りされたFATサウンドに乗る稲葉の勇ましい決意表明……というスタイルは「フキアレナサイ」とか「Dark Rainbow」ら辺でもう聴いているなぁという感じなのだが、良かったのはその2曲より曲も演奏もミックスもいい(多分配信版からミックスし直した?)。この路線の総まとめ的な一曲。
稲葉の度を越したストイックさは時折ファンも引くほどだが、無茶のメタファーに鞭を持ち出してきたらもう流石にやりすぎである。そういった意味でもこれ以上は無いと思う、あるとすればいよいよ三角木馬しか思い浮かばない。
05.INTO THE BLUE
タイアップ先のプロモ映像でサビだけ聴いた時はふーんとしか思わなかったが、通して聴くとメロディアスで落ち着いていていい曲だ。このアルバムには純粋なバラードが無いから、中盤の清涼剤としても機能している。
ギターソロは本作随一かもしれない。初めて聴いた瞬間「これですこれこれこれこれ」となった。全てを内包するような海原の大らかさ、その中でふと顔を覗かせる翳りが絶妙なバランスで同期した名ソロだと思っている。
全英詞かと思いきや1・2番のBメロだけ日本語。「LADY-GO-ROUND」も英詞化された時はブリッジの「こひしかるべき〜」だけは日本語のまま残されたことを思い出した。
06.FAITH?
FYOPの中でもとりわけ松本のルーツが前面に押し出されている曲。と言うかMSG。アウトロが「Into The Arena」のリズムなのはそうだし、ソロも恐らくシェンカーと言うか、昔の松本のようにワウ半止めにしているはず。
最初はサビに隙間が多く淡白だなと思ったのだが、ラスサビにかけて空白を埋めるようにギターのオブリが次第に派手になっていくのはなるほどなぁとなった。これ、松本も弾いていてかなり楽しかったんじゃないか。
アウトロでリズムチェンジして、さぁ弾きまくってくれるぞと思っていたらハモンドにソロを譲って呆気無く引き下がってしまった。別に自己満でいいからもう数分くらいセッションが続いても面白いのに。
07.片翼の風景
先述した「別にそんな捻らんでもいいじゃん」とはこの曲のことなのだが、何故サビ終わりをルート音に戻さず、何の脈絡も無く急に出てきたような変なコードで締めてしまうんだろうか。ユニコーンの「すばらしい日々」のサビ終わりを聴いた時に思った違和感とよく似ている。
曲名が公表された時点でファンの間では「松本がいない日々をテーマにした歌詞じゃないかしら」と囁かれていたが、珍しく(?)それが当たった。ここまで直接的に書くかというほど松本不在時の稲葉の心象がダイレクトに書かれており、「あいかわらず約束などしてないけれど」とか、ファンなら皆知っているような逸話がモチーフであろうフレーズも飛び出してくる。
バンドにとっても後にも先にも無かった事態なわけで、そういった意味では今作でしか書き得ない貴重な一曲かもしれない。
08.イルミネーション
先行配信曲。朝ドラで半年間毎日使われ紅白でも歌われ、今作の中では多分知名度が一番高い。
先述した通り配信版のミックスはバカほど悪かったのだが、アルバム収録にあたって劇的と言っていいほど変わった。じゃあ正式にアナウンスしてくれよと思いつつ、配信版のまま収録されなかったことは素直に喜ぼう。
にしても、こうして整ったミックスで聴き直すと改めてしみじみいい曲だ。世間的なB’zのイメージ像を損なわないようにしつつ、どのように朝ドラにコミットするかの最大公約数を体現した名曲。
09.The Ⅲrd Eye
「イルミネーション」に引き続き仕事人B’zが如何無く発揮された曲。ルパン映画の主題歌決定と聞いた時はB’zとルパンってどうやってマッチさせるんだと思っていたのだが、あまりにも最適解みたいな曲が出てきてしまった。
ブラスセクションが跳ねギターも調子良くドライブする、今作随一の派手な曲。上でも書いた通り、この手の強力なナンバーがアルバムの最終盤に置かれているとダレずに聴き通せるから素晴らしい。
ちなみに映画はちゃんと映画館まで足を運んだが、メチャクチャ感想に困った。そう言えば「リヴ」が主題歌だった嘘食いも同じくメチャクチャ感想に困った。どうか感想に困る映画の主題歌にならないでほしい。
10.その先へ
「グローリーデイズ」のようなミディアムバラードが始まったと思ったらBメロで風向きが変わり、サビはイントロとは打って変わって素朴な趣。一方でギターソロは割と雄弁に弾きまくっている。
裏で鳴っているチェンバロ然り盛り上がり過ぎないサビ然りビートルズっぽいなと思いながら聴いていたのだが、調べたところどうも僕しか思っていないようだった。しかもその過程で、ずっとチェンバロの音だと思い込んでいた「In My Life」のソロがチェンバロじゃないことを知って愕然とした。
前曲でラストスパートをかけ、この曲でクールダウンしてアルバムを終えるような感覚。お疲れ様でした。
全体的なまとめの話
無駄に長くなってしまった。
パッケージ、アートワーク、ミックス、構成、曲、オリジナルアルバムを評価するポイントは大体この辺りを揃えれば自ずと見えてくるもんじゃないかと思う。上記を総合的に判断して、個人的には今のバンドの現在地、モチベーションを窺うことができる良作だとまとめたい。
特に今年は松本の療養、不在という未曽有の事態もあっただけに、下手すりゃ今後の活動そのものもどうなんだろうかと危惧していた中で、ライブツアーの決行、そしてこれだけ内容のあるアルバムをリリースしてくれるとなると最早感謝しか無い。頼もしいバンドだとつくづく思う。
ここまで読んでいただいた人がもしいるとして、もしその人がFYOPを聴いていなかったとして、万に一つこの長文がアルバム購入の指標になるのであれば、僕もダラダラ書いてきたなりに喜ばしいことです。いいアルバムなので是非お求めください。
余談。これを書いている今日11/15(土)、アルバムツアーが始まった。
僕は東京ドーム初日のライブを観に行く予定だが、絶対ネタバレを踏まずに挑むぞと戦々恐々である。なるべくサジェストもトレンドも見ないようにする。スポティファイのランキングなんかも迂闊に見たら危ないのだ。
いよいよ大変だ。誰も俺に何も言ってくれるなよ。全ての日程が終わったらいくらでも話そう、よろしく頼みます。
(2025.11)

